「算数が好き!」と「算数きらい…」の分かれ道は、低学年ですでに始まっている

エイスクールに通うさまざまな生徒たちと接していると、低学年のうちから、
「算数だいすき!もっと問題出して!」という子もいれば、
「算数きらい…ドリルなんて見たくない…」という子もいて、はっきり分かれてきます。
面白いのは、テストの点数だけが“好き・嫌い”を決めているわけではない、ということです。
教育心理学の研究でも、
- 「できた!」「わかった!」という成功体験をどれだけ積んでいるか
- つまづいたときや間違えたときに、どんな声かけをされてきたか
- 日常の中で、どんな “かずあそび” “かたちあそび”をしてきたか
こうしたものが、低学年の算数への好き嫌いに大きく影響していることが分かってきています。
今日は、主に小1〜小3くらいをイメージしながら、算数を「好きになる主な理由」と「嫌いになる主な理由」を、現場での経験とアカデミックな知見を織り交ぜながら整理してみます。
1. 低学年で「算数を好きになる」主な理由
① 「かず」や「かたち」で遊んだ経験
子どもたちの多くは
- ものの数や量を数える・比べる
- ブロックを並べる・組み合わせる
- サイコロをふる
- パズルを組む
といった「目の前のものをいじる・くらべる・並べる」こと自体が大好きです。
「いくつあるんだろう?」「どうしたらピッタリはまるかな?」という素朴な問いとセットになった経験が、日々の遊びの中で豊富にあると、算数は「勉強」や「問題」ではなく、“遊びの一種”として立ち上がってきます。
実際の研究でも、低学年で算数が好きな子どもほど「数を数えるのが楽しい」「図形パズルが好き」といった、“数や形そのものの楽しさ”を感じている割合が高いことが報告されています。

② 生活の中で“自然に”算数に触れる経験
- 買い物で商品の金額に目を向ける
- 食べ物やおやつを兄弟で分ける
- 時間について話しながらスケジュールを立てる
- 体重や身長、モノの大きさをはかる
こういう場面で、「いくつあった?」「いくらになる?」「何時まで?」と数を意識しながら対話したり、「今やったのが、かけ算なんだよ」とさりげなく名前をつけてあげたりすると、「算数=授業・教科書の中だけの話」ではなく「自分の生活のあちこちに出てくるもの」として、子どもがいつの間にか算数を位置づけるようになっていきます。
算数を好きな子ほど、こうした実体験を通じて「算数は生活に役立つ」「身の回りのことを理解するのに使える」と感じている傾向がある、というのも、多くの調査で共通して指摘されているポイントです。
③ 小さな「できた!」経験
低学年の算数は、良くも悪くも「正解がすぐ分かる」世界です。
- 5+3=8 がスッと出てきた
- たし算カードを全部クリアできた
- さっきより速く計算できた
こうした「わかりやすい成功体験」が続くと、子どもは「好きかも」「いけるかも」という自己効力感(やればできる感)を持ちやすくなります。この感覚が、その子が算数を好きになるか、逆に苦手意識をもつかを左右する、重要な土台になっていきます。
④ 間違えても安心できる「場」がある
低学年では、先生や親との関係性が、そのまま算数への感情に直結しがちです。
- 間違えても「お、いいところに気づいたね」「ここまで合ってるよ」と返してもらえる。
- 分からないと言ったときに、一緒に考えてもらえる。「なんでだろうね?」と、一緒に面白がってくれる。
- できたら、わかったら、素直に喜んでもらえる。
こんな経験が多い子は、「算数の時間=自分を否定されない時間」として、安心してチャレンジできるようになっていきます。
研究でも、教師や保護者からの支援的な関わりが強いほど、子どもの算数に対する不安が低く、楽しさや自信が高い傾向があることが、繰り返し報告されています。
2. 低学年で「算数を嫌いになる」主な理由
次は逆側です。低学年で「算数きらい…」になってしまう典型的なパターンをいくつか挙げていきます。
① 基本のつまずきが“置き去り”になっている
低学年でよく出てくるのが、
- 繰り上がり・繰り下がりの足し算・引き算
- 九九の暗記
といったところでのつまずきです。
ここでつまずいたときに、もとに戻って学び直す時間が十分に取れないと、「みんなは進んでいるのに、自分だけ分からない」「黒板のスピードに全然ついていけない」という“置きざり感”が生まれます。この“置きざり感”が続くと、算数そのものに対するネガティブな感情へと変化していきがちです。
また、これは感情だけの問題ではありません。算数は基本的に「積み上げ型」の科目なので、基礎が分かっていないと、その先に学ぶ内容を理解しにくい、という構造になっています。実際、中高生になっても「小学校低学年レベルの土台」が抜けたままで、そのことが原因で数学がよく分からない、というケースは少なくありません。
② スピード重視・ドリル中心の学習
もうひとつ大きいのが、「速さ」に強くこだわる指導です。
- 時間を計って計算プリントを解かせる。
- 間違いよりも、タイムや枚数で競争させる。
こうした環境は、一部の子には効く一方で、「考えながら解く」タイプの子を傷つけてしまうことも少なくありません。
研究でも、小さい頃から「計算のスピードテスト」でプレッシャーを感じている子どもほど、算数のテスト場面において、強い不安を持ちやすいことがわかっています。
「間違えたら怒られるかも」「速くやらなきゃいけない」という不安が先に立つと、本当は考える力はあっても、頭がうまく回らなくなり、手も止まってしまう──そんなことが現実に起きてしまいます。
③ 意味が分からないまま“やり方だけ”を教わる
低学年の計算学習でありがちなのが、
- 具体物を十分に扱う前に、計算の手続きを教えることが先行している
- 子どもたちは「ここに1って書いて、次にここを足して…」と、手順だけを暗記している
- とにかく反復練習で ”できるようになること” が優先されている
というパターンです。
子どもにとっては、「なんでこうなるの?」「どうして順番を入れ替えちゃいけないの?」といった“モヤモヤ”が残ったまま、「よく分からないけど、とりあえず従う」作業になってしまいます。
この「意味は分からないけれど、やり方だけ覚えさせられる経験」が重なっていくと、「算数=理不尽な決まりを覚える科目」「自分の頭で考えても意味がない」というイメージが育ってしまい、計算がただの ”作業” になってしまいます。
④ 間違えたときの“ひとこと”が刺さっている
算数嫌いになった経験を聞くと、本人の記憶に強く残っているのは、案外、点数そのものではなく「言葉」です。
- 「なんでこんな簡単な問題もできないの?」
- 「ちゃんと聞いてたの?」
- 「○○ちゃんはもうできてるよ」
こうしたひとことが、子どもにとっては「自分はダメな子なんだ」「自分は算数が苦手なんだ」というメッセージとして刻まれてしまいます。
研究でも、「子ども同士を比較する」「能力をラベリングする」ような関わりは、その教科への不安や嫌悪感を高めやすいことが指摘されています。
3. 大人として意識しておきたいこと
ここまでをざっくりまとめると、
好きになる入口: 「生活の中や遊びとしての数・形」+「小さな成功」+「安心して間違えられる場」
嫌いになる入口: 「つまずきの放置」+「スピードや正解への偏重」+「否定的なひとこと」
と言えそうです。
親として・先生としてできることは、そんなに特別なことではなくて、
- 日常の「かずあそび」「かたちあそび」を意識的に増やす
- スピードや正解以上に、「考える姿勢」や「考え方」を大事にする
- つまずいたところは、学年を気にしすぎずに一度戻って、ゆっくりやり直す
- 間違えたときほど、「ナイストライ」「ここまで合ってるよ」といった声掛けを意識する
といった「小さなデザイン」「小さな工夫」の積み重ねです。
低学年で「算数ってちょっとおもしろいかも」と感じられるかどうかは、その後の算数・数学との付き合い方に、想像以上に大きな影響を与ます。だからこそ、この時期のかかわり方を、ぜひ少しだけ意識してもらえると嬉しいです。
次回は、この続きとして、高学年で「好き」が育つパターン/「嫌い」が固定化されるパターンについても整理してみようと思います。